H-RISE 公益財団法人北海道科学技術総合振興センター 幌延地圏環境研究所

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H-RISE 公益財団法人北海道科学技術総合振興センター 幌延地圏環境研究所

幌延ライズとは
公益財団法人
北海道科学技術総合振興センター
H-RISE 幌延地圏環境研究所
〒098-3221
北海道天塩郡幌延町栄町5番地3
TEL 01632-9-4112
FAX 01632-9-4113

令和5年度

幌延地圏環境研究所は,2012年度からの9年間で第二期長期計画を策定し,地下微生物を活用した地層内メタン生成に関する研究を推進してきた。2021年度からは第三期長期計画期間に入り,2023年度は3年目になる。2019年に開始したバイオメタン生産法SCG法(Subsurface Cultivation and Gasification; バイオメタン鉱床造成/生産法)の適用性の検討は,UBE三菱セメント(株)との共同研究により,同社の天北炭鉱小石露天坑においてSCG法の原位置試験を実施し,今年度もそれを継続した。原位置試験は,地下微生物環境研究グループ・地下水環境研究グループ・堆積岩特性研究グループの全員の共同体制で実施したことから,本報告書では,現在までに得られた成果をまとめた。
この原位置試験は,天北炭鉱小石露天坑の褐炭層を対象として2019年7月に開始し,冬季無人計測の後,2020年にH30-6孔を注入孔として海洋深層水と過酸化水素水の注入試験をそれぞれ実施した。2021年度は同孔にギ酸ナトリウムと,H30-4孔に炭酸水素ナトリウム溶液を注入し,その後の孔内水中の生成物である酢酸,生成メタン量を計測した。ギ酸の濃度減少および酢酸の濃度上昇を観測するとともに,メタン生成アーキアの相対存在頻度の増加が確認された。メタン生成量は直接計測できなかったが,炭素同位体比の変化を踏まえるとメタン生成が示唆された。2022年度は,新規に3本のボーリング孔(2022-U, 2022-M, 2022-L)を既存ボーリング孔(H30-4孔とH30-6孔)の南に掘削し,予備的揚水試験を実施した。2022-U孔は炭層よりも上部層に,2022-M孔は炭層内に,2022-L孔は炭層よりも下部層にストレーナを設置した。2023年度は,2021年度の再現性を確認するために,H30-6孔に炭酸水素ナトリウム溶液を再度注入し,地下水中のδ13C(CO2)とδ13C(CH4)が低下することが測定され,二酸化炭素を炭素源とするバイオメタンが生成された可能性が再確認された。また,2022-M孔を揚水孔とした揚水試験を行い,褐炭層水平方向の水頭低下を確認し,褐炭層の透水係数を評価するとともに,地下水の流向・流速を評価した。これらの結果は,今後バイオメタンの移行解析に使用する予定である。
道北地域の地下水に高濃度に存在するヨウ素(I)の濃集機構を解明するため,2023年度は,岩石中のヨウ素同位体比(I-129/I-127)を測定し,岩石中のヨウ素同位体比は地下水中のヨウ素同位体比に比べ,高い値を示すことがわかった。しかし,同位体比の結果の安定性が良好ではなかったため,同一試料の繰り返し分析も実施し,安定した同位体比の結果が得られるようになり,今後地下水の年代評価に活用していく予定である。
JAEA幌延URLの地下水試料より取得したZ1-71株について,過去に新種メタン生成アーキアとしてH-RISEより報告した水素資化性メタン生成アーキアMethanoculleus horonobensis T10T株との共培養実験を行った。培養液および気相を分析した結果,T10T株がメタンを生成することが推察された。この結果から,幌延地下環境におけるメタン生成機構の理解を深めることが期待できる。
上記研究の推進において,日本原子力研究開発機構幌延深地層研究センターには地下施設からの試料提供とともに各般に亘り便宜をお図り頂いたことに対して謝意を表する。原位置試験はUBE三菱セメント(株)との共同研究として実施しており,同社関係各位に謝意を表する。また,幌延町をはじめとする関係各位のご支援が研究推進の大きな活力となったことを記し,感謝の意を表する。2023年度は,過去3ケ年の成果の中間評価も実施され,貴重なご意見をいただいた評価委員をはじめとする関係者に感謝の意を表する。