H-RISE 公益財団法人北海道科学技術総合振興センター 幌延地圏環境研究所

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幌延ライズとは
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H-RISE 幌延地圏環境研究所
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令和4年度

 幌延地圏環境研究所は,2012年度からの9年間で第二期長期計画を策定し,地下微生物を活用した地層内メタン生成に関する研究を推進してきた。2021年度からは第三期長期計画期間に入り,2022年度は2年目になる。2019年に開始したバイオメタン生産法SCG法(Subsurface Cultivation and Gasification; バイオメタン鉱床造成/生産法)の適用性の検討は,UBE三菱セメント(株)(旧三菱マテリアル(株))との共同研究により,同社の天北炭鉱小石露天坑においてSCG法の原位置試験を実施し,今年度もそれを継続した。原位置試験は,地下微生物環境研究グループ・地下水環境研究グループ・堆積岩特性研究グループの全員の共同体制で実施したことから,本報告書では,現在までに得られた成果をまとめた。

原位置試験は,天北炭鉱小石露天坑の褐炭層を対象として2019年7月に開始し,冬季無人計測の後,2020年にH30-6孔を注入孔として海洋深層水と過酸化水素水の注入試験をそれぞれ実施した。2021年度は同孔にギ酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムの溶液を注入し,その後の孔内水中の生成物である酢酸,生成メタン量を計測した。ギ酸の濃度減少および酢酸の濃度上昇を観測するとともに,メタン生成アーキアの相対存在頻度の増加が確認された。メタン生成量は直接計測できなかったが,炭素同位体比の変化を踏まえるとメタン生成が示唆された。しかし,炭素の物質収支を考慮すると,地下水流動の影響が推察されたことから,2022年度は,新規に3本のボーリング孔(2022-U, 2022-M, 2022-L)を既存ボーリング孔の南に掘削し,予備的揚水試験を実施した。2022-U孔は炭層よりも上部層に,2022-M孔は炭層内に,2022-L孔は炭層よりも下部層にストレーナを設置し,各層の地下水の混合を防止した。予備揚水試験の結果から,各地層の地下水の連続性はほとんど確認できなかったが,炭層中の地下水には揚水の影響が周辺の炭層の地下水で認められた。また,ボーリング掘削時に採取したコアを用いて室内透水試験を実施した。その結果,鉛直方向のコアサイズでの透水係数は,3層とも10-13〜10-10 m/sとなり,昨年度の揚水試験で得られた値と比較して非常に低い値となった。2023年度に計画している現場揚水試験によって詳細に調査する予定である。
2020年から2021年に実施した同位体比の異なる無機炭素の溶液を注入した孔内水の炭素同位体比の変化の結果から,注入した溶存二酸化炭素がメタンに変換されていることが明らかになった。また,炭素の形態変化に関するモデルを構築し,数値シミュレーションによって変換割合,変換速度を評価した。それらの結果,メタンの生成速度は10-5〜10-4 mol L-1 day-1となった。
道北地域の地下水に高濃度に存在するヨウ素(I)の濃集機構を解明するため,上猿払地区に掘削されたSAL25-2および-3孔の褐炭層中地下水とコア間隙水中のI,臭素(Br)および塩素(Cl)に着目した。どちらの孔もI濃度は鬼志別層/宗谷夾炭層境界付近から深部に向けて増加し,褐炭層中地下水で最大値約100 mg L–1を示した。また,天水や海水などの影響を除去した初生的なI/Br比は主に現在の海洋堆積物表層の有機物に濃集しているI/Br比の範囲にプロットされた。この範囲にはタービダイト性堆積物の特徴をもつ増幌層の地下水のI/Br比もプロットされた。このことから,上猿払地区宗谷夾炭層の高濃度I地下水は増幌層を起源とし,そのIは海洋堆積物表層に濃集したIがタービダイト性堆積物として保存され,続成作用により地下水中に溶出したことが示唆された。
過去に行った小石現場の孔内水中の微生物群集構造解析の結果を元に,原位置環境の地下水を培養液として用いた室内での培養試験によるメタン生成ポテンシャル確認試験を行った。本年度の培養試験の狙いとしては,原位置環境にも高い割合で存在する酢酸生成に関わる微生物の増殖をできる限り抑え,メタン生成アーキアによるメタン生成を効率よく行う条件を探索した。培養試験の結果,H2/CO2とギ酸からメタン生成が生じること,メタン発生までには時間がかかるが,還元剤が無くてもメタン生成が生じることがわかり,現場に存在する微生物によりメタン生成が生じることを明らかにした。新たに掘削された小石2022-L,2022-M,2022-U孔のうち,小石2022-L孔から得られた褐炭コア試料中の微生物群集構造解析を試みた。次世代シーケンス解析の結果では褐炭コア試料中にメタン生成アーキアが存在することがわかり,褐炭固相中に存在するメタン生成アーキアが活用できる可能性が示唆された。一方,JAEA幌延URLの地下水試料より取得したMangrovibacterium sp. Z1-No.71株,CO2固定能を有するThiomicrospira sp. V2501株について,本年度は全ゲノム解析を行った。その結果,両菌株ともに良好な全ゲノムシーケンス解析結果を得ることができた。

上記研究の推進において,日本原子力研究開発機構幌延深地層研究センターには地下施設からの試料提供とともに各般に亘り便宜をお図り頂いたことに対して謝意を表する。また,原位置試験はUBE三菱セメント(株)との共同研究として実施しており,同社関係各位に謝意を表する。最後に,幌延町をはじめとする関係各位のご支援が研究推進の大きな活力となったことを記し,感謝の意を表する。