幌延ライズとは
公益財団法人
北海道科学技術総合振興センター
H-RISE 幌延地圏環境研究所
〒098-3221
北海道天塩郡幌延町栄町5番地3
TEL 01632-9-4112
FAX 01632-9-4113
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令和2年度
幌延地圏環境研究所は,第二期長期計画のもとで,地下微生物を活用した地層内メタン生成に関する研究を推進してきた。第二期長期計画期間は2012年度からの9年間であり,2020年度が最終年度である。そこで,2019〜2020年度は,本研究所が提案したバイオメタン生産法SCG法(Subsurface Cultivation and Gasification; バイオメタン鉱床造成/生産法)の適用性を検討して,その改善点を抽出することを目的として,三菱マテリアル(株)との共同研究により,同社の天北炭鉱小石露天坑においてSCG法の原位置試験を実施してきている。原位置試験は,地下微生物環境研究グループ・地下水環境研究グループ・堆積岩特性研究グループの全員の共同体制で実施したことから,以下では,まず,原位置試験の概要と現在までに得られた成果をまとめ,その後に,それぞれの研究グループごとの課題と研究成果を記すこととした。
原位置試験は,天北炭鉱小石露天坑の褐炭層を対象として2019年7月に開始し,冬季無人計測の後,2020年5月8日〜11月9の期間に海洋深層水と過酸化水素水の注入試験をそれぞれ実施した。まず,冬季間の水質計測結果を示し,半年間の無人計測に成功したことを示す。注入試験は,H30-6孔を注入孔として,海洋深層水1 m3の注入と0.3%過酸化水素水1 m3の注入の2回の試験を行い,いずれの作業も安全に終了し,褐炭層への注入に成功した。そして,注入時の水圧変化,注入後の孔内水の水質の経時変化などを計測・分析した。水質としては,pH,電気伝導度,溶存酸素濃度などの計測とともに,定期的採水により過酸化水素濃度,有機酸濃度さらには微生物密度と群集構造などの分析を行った。いずれも世界初の試みであり,極めて興味深い知見が得られているが,特に,炭層への過酸化水素水注入により原位置炭層中に有機酸が生成されることが検証されている。
次に,研究グループごとの研究課題と成果は次のようである。
地下微生物環境研究グループでは,小石露天坑において孔内水中の微生物群集の経時モニタリングを行った。その結果,海洋深層水注入後には微生物密度の増加が見られること,過酸化水素水注入後は,一時的に微生物密度の減少が生じるが,その後増加することなどを確認した。また,微生物群集構造解析により,過酸化水素水注入の影響により,原位置環境に棲息するメタン生成アーキアの割合が減少することなどを明らかにした。室内におけるSCG法を想定したメタン生成試験については,小石露天坑の原位置地温(約8℃)よりも高い温度条件下でメタン生成が観察された。さらに,JAEAが大深度ボアホール調査時に採取した地下水試料より,新種の硫酸還元菌の取得に成功し,本年度,新種記載に関する報告を行った。今後の幌延深部地下環境でのメタン生成アーキアやメタン生成機構解明,微生物の多様性解明にも役立つことが期待される。
地下水環境研究グループでは,まず,小石露天坑における水質モニタリングおよび採水による水質分析の結果を示した。特に,注入された海洋深層水は約1ヶ月程度で原位置の地層水に置き換わることを確認するとともに,過酸化水素水注入後の過酸化水素濃度変化,これに伴うギ酸や酢酸などの有機酸濃度変化の傾向を具体的に明らかにした。また,釧路コールマインの炭層および堆積岩層中のメタンは微生物起源であること,炭層中のカルサイトはメタン生成環境下で析出したことなどを明らかにするとともに,道内9施設の温泉水の水質および微生物組成の分析により,温泉水中のヨウ素の起源などを明らかにした。さらに,小石露天坑の褐炭を用い,原位置環境を考慮した過酸化水素水反応のバッチ試験およびカラム試験(8℃)を実施し,いずれにおいても,室温における試験結果と同程度の高濃度で各種有機酸が生成されることなどを確認した。
堆積岩特性研究グループでは,原位置褐炭層の透水特性の初期状態を把握した上で,過酸化水素水注入に伴う透水特性の変化を考察した。まず,海洋深層水の注入において,注入孔及び参照孔の圧力変化を測定した結果,注入孔周辺の透水係数は2.46×10-6m/sと評価され,この値は前年度,揚水試験で評価された透水係数より若干大きいがほぼ調和的であった。また,過酸化水素水注入において,注入孔の水圧変化は海洋深層水注入時と顕著に異なること,注入孔周辺では過酸化水素と褐炭の反応に伴い見かけ上透水係数が低下することなどを明らかにした。また,参照孔の水圧挙動から,注入した過酸化水素水は参照孔には及んでいないと解釈された。さらに,ペーパーディスク型および熱量式の地下水流向流速測定を実施し,流速が0.01cm/min以下で周辺の地下水流動が大きくないことを確認した。
以上をもって,第二期長期研究計画期間における研究のまとめとする。最後に,一連の研究実施において,日本原子力研究開発機構幌延深地層研究センターには地下施設からの試料提供とともに各般に亘り便宜をお図り頂いたことに対して謝意を表する。また,上述したように原位置試験は三菱マテリアル株式会社との共同研究として実施しており,同社関係各位に謝意を表する。さらに,試料採取・分析では,釧路コールマイン株式会社のご協力を得たことを記し,関係各位に謝意を表する。最後に,幌延町をはじめとする関係各位のご支援が研究推進の大きな活力となったことを記し,感謝の意を表する。
原位置試験は,天北炭鉱小石露天坑の褐炭層を対象として2019年7月に開始し,冬季無人計測の後,2020年5月8日〜11月9の期間に海洋深層水と過酸化水素水の注入試験をそれぞれ実施した。まず,冬季間の水質計測結果を示し,半年間の無人計測に成功したことを示す。注入試験は,H30-6孔を注入孔として,海洋深層水1 m3の注入と0.3%過酸化水素水1 m3の注入の2回の試験を行い,いずれの作業も安全に終了し,褐炭層への注入に成功した。そして,注入時の水圧変化,注入後の孔内水の水質の経時変化などを計測・分析した。水質としては,pH,電気伝導度,溶存酸素濃度などの計測とともに,定期的採水により過酸化水素濃度,有機酸濃度さらには微生物密度と群集構造などの分析を行った。いずれも世界初の試みであり,極めて興味深い知見が得られているが,特に,炭層への過酸化水素水注入により原位置炭層中に有機酸が生成されることが検証されている。
次に,研究グループごとの研究課題と成果は次のようである。
地下微生物環境研究グループでは,小石露天坑において孔内水中の微生物群集の経時モニタリングを行った。その結果,海洋深層水注入後には微生物密度の増加が見られること,過酸化水素水注入後は,一時的に微生物密度の減少が生じるが,その後増加することなどを確認した。また,微生物群集構造解析により,過酸化水素水注入の影響により,原位置環境に棲息するメタン生成アーキアの割合が減少することなどを明らかにした。室内におけるSCG法を想定したメタン生成試験については,小石露天坑の原位置地温(約8℃)よりも高い温度条件下でメタン生成が観察された。さらに,JAEAが大深度ボアホール調査時に採取した地下水試料より,新種の硫酸還元菌の取得に成功し,本年度,新種記載に関する報告を行った。今後の幌延深部地下環境でのメタン生成アーキアやメタン生成機構解明,微生物の多様性解明にも役立つことが期待される。
地下水環境研究グループでは,まず,小石露天坑における水質モニタリングおよび採水による水質分析の結果を示した。特に,注入された海洋深層水は約1ヶ月程度で原位置の地層水に置き換わることを確認するとともに,過酸化水素水注入後の過酸化水素濃度変化,これに伴うギ酸や酢酸などの有機酸濃度変化の傾向を具体的に明らかにした。また,釧路コールマインの炭層および堆積岩層中のメタンは微生物起源であること,炭層中のカルサイトはメタン生成環境下で析出したことなどを明らかにするとともに,道内9施設の温泉水の水質および微生物組成の分析により,温泉水中のヨウ素の起源などを明らかにした。さらに,小石露天坑の褐炭を用い,原位置環境を考慮した過酸化水素水反応のバッチ試験およびカラム試験(8℃)を実施し,いずれにおいても,室温における試験結果と同程度の高濃度で各種有機酸が生成されることなどを確認した。
堆積岩特性研究グループでは,原位置褐炭層の透水特性の初期状態を把握した上で,過酸化水素水注入に伴う透水特性の変化を考察した。まず,海洋深層水の注入において,注入孔及び参照孔の圧力変化を測定した結果,注入孔周辺の透水係数は2.46×10-6m/sと評価され,この値は前年度,揚水試験で評価された透水係数より若干大きいがほぼ調和的であった。また,過酸化水素水注入において,注入孔の水圧変化は海洋深層水注入時と顕著に異なること,注入孔周辺では過酸化水素と褐炭の反応に伴い見かけ上透水係数が低下することなどを明らかにした。また,参照孔の水圧挙動から,注入した過酸化水素水は参照孔には及んでいないと解釈された。さらに,ペーパーディスク型および熱量式の地下水流向流速測定を実施し,流速が0.01cm/min以下で周辺の地下水流動が大きくないことを確認した。
以上をもって,第二期長期研究計画期間における研究のまとめとする。最後に,一連の研究実施において,日本原子力研究開発機構幌延深地層研究センターには地下施設からの試料提供とともに各般に亘り便宜をお図り頂いたことに対して謝意を表する。また,上述したように原位置試験は三菱マテリアル株式会社との共同研究として実施しており,同社関係各位に謝意を表する。さらに,試料採取・分析では,釧路コールマイン株式会社のご協力を得たことを記し,関係各位に謝意を表する。最後に,幌延町をはじめとする関係各位のご支援が研究推進の大きな活力となったことを記し,感謝の意を表する。